ボツリヌス治療外来
ボツリヌス治療外来
ボツリヌス毒素は、運動神経終末やコリン作動性神経に作用し、アセチルコリンの放出を阻害することで筋弛緩作用を発現します。現在、さまざまな筋の弛緩障害を伴う疾患に対する治療法として、ボツリヌス毒素が有効とされています。ボツリヌス毒素注射により、筋肉の緊張を和らげることで治療効果を発揮します。当科では、有効とされる疾患に対し、ボツリヌス毒素製剤(ボトックス、ゼオマインなど)を用いて治療を行っています。
●ボツリヌス治療2,000件以上の実績があり、日本リハビリテーション医学会専門医および日本臨床神経生理学会(筋電図・神経伝導検査)専門医を持つ医師が、診察および必要な検査を通じて適応の可否を総合的に判断し、治療を行います。
●深部筋は超音波や筋電計を用いて正確に同定の上、施注します。浅層筋への施注は比較的容易で、治療は短時間で終了します。ボツリヌス毒素の効果は、注射後数日で表れ、3~4か月間持続します。
●当科では、上肢痙縮・下肢痙縮、痙性斜頸、片側顔面痙攣、眼瞼痙攣に対して保険診療を行っています。保険適応とならない場合は、自費診療での対応となります。
●全身性の神経筋接合部の障害がある方(重症筋無力症、ランバート・イートン症候群、筋萎縮性側索硬化症等)、妊婦または妊娠している可能性のある方、および授乳中の方は原則として治療できません。
対象疾患(保険適応)
- ①上肢痙縮・下肢痙縮(じょうしけいしゅく・かしけいしゅく)
- ②痙性斜頸(けいせいしゃけい)
- ③片側顔面痙攣(かたがわがんめんけいれん)
- ④眼瞼痙攣(がんけんけいれん)
●脳卒中、脳性麻痺、頭部外傷、脊髄損傷などにより脊髄での反射が亢進し、筋緊張の亢進による運動障害や不随意運動を特徴とします。重度になると日常生活の動作を悪化させ、痛みを伴ったり締め付け感が強くなり、生活の質が著しく低下します。
●痙縮による日常生活の支障としては、「着替え、入浴などで介護者が動かしたりすると、より強い痛みを伴う」「ものをつかもうにも腕が伸びない」「着替えに苦労する」「にぎり込まれた指を無理に開こうとすると痛みが生じる」「手が洗えない」「股が閉じる」「「足がつっぱって上手く歩けない」「転倒しやすい」などがあります。
●ボツリヌス療法は脳卒中治療ガイドラインにおいてもグレードA(行うように強く勧められる基準)として推奨されています。上肢下肢の痙縮の軽減、関節可動域の増加、日常生活上の介助量の軽減に有効です。
●上肢の痙縮にはボツリヌス毒素を上腕、前腕や手指筋群に注射します。(図は上肢痙縮の注射部位の例)
●下肢の痙縮には大腿、下腿や下肢筋群に注射します。(図は下肢痙縮の注射部位の例)
頭頸部の筋緊張異常により頭位に異常が生じる疾患です。症状は患者によって異なり、頭部の回旋・側屈・前後屈、肩挙上、側彎、体幹のねじれなどの様々な組み合わせで現れます。筋緊張の異常は胸鎖乳突筋、僧帽筋、頭板状筋、肩甲挙筋、斜角筋などに見られ、頭位の異常が認められます。
顔面神経の不随意な興奮によって支配筋に攣縮が生じる病態です。通常、脳幹部から顔面神経への移行部位に血管が接触または食い込むことが原因です。稀に腫瘍や嚢胞病変、動脈瘤などによる圧迫も原因となることがあります。基本的には片側にのみ生じます。
瞼裂が眼輪筋の痙攣によって閉鎖する状態で、持続的または間欠的に生じます。羞明感(微かな光でも眩しいと感じやすい)、眼部の刺激感、違和感から始まり、重症化すると閉瞼障害(眼を閉じられない)を来たします。通常は両側に対称的ですが、軽度の左右差を認めることもあります。
その他のボツリヌス治療の対象となる症状(保険適応外)
- ①Retrograde cricopharyngeal dysfunction (R-CPD), No burp syndrome, 逆行性輪状咽頭筋機能障害, げっぷ困難症候群
- ②輪状咽頭筋弛緩障害による飲み込み困難(嚥下障害)
食道の上部にある輪状咽頭筋(cricopharyngeal muscle)の機能異常により、げっぷ困難を主症状とする病態です。輪状咽頭筋は、飲み込むときに弛緩して食物を食道に通し、げっぷ時には弛緩し胃内のエアーを食道から口腔に逆流させます。R-CPDでは輪状咽頭筋がうまく機能せず、げっぷが困難になります。食後に腹部膨満感、不快感、胸やけを伴うことが多く、炭酸水やビールを飲むと症状が悪化することがあります。吐き気があっても嘔吐できない、胸と首の下部から(カエルが鳴くような)ゴロゴロという音が聞こえることもあります。輪状咽頭筋にボツリヌス毒素(ボトックス)を注射して筋肉を弛緩させることで、げっぷ困難やその他の症状の改善が期待できます。R-CPDの診断やボツリヌス毒素注射の適応判断は、問診や嚥下造影検査などで総合的に行います。
食道の上部にある輪状咽頭筋は、嚥下運動中に舌骨上筋群の収縮とほぼ同期して弛緩します。この間に食べ物は咽頭から食道に運ばれます。脳卒中後などに輪状咽頭筋が過緊張状態に陥ると、輪状咽頭筋が弛緩しないまたは不完全になることがあります。このような嚥下障害に対して、輪状咽頭筋にボツリヌス毒素(ボトックス)を局所注入すると、数日後から徐々に輪状咽頭筋が弛緩し、食べ物の食道への通過改善は3~4ヶ月以上持続します。嚥下障害の中でも、咽頭収縮と喉頭挙上がある程度保たれている輪状咽頭筋弛緩障害例に対しては有効な治療法とされています(有効率74%)。輪状咽頭筋弛緩障害の診断やボツリヌス毒素注射の適応判断は、問診や嚥下造影検査などで総合的に行います。
診療時間・予約
●火曜日 午後(14:00~15:30)
●担当医:青柳 陽一郎(リハビリテーション科)
●ボツリヌス治療外来は完全予約制です。
●外来予約専用ダイヤル(0120-692-135)までお電話ください。
●診察料、施注料等については外来でお尋ねください。